田園を望む家

敷地は農業振興地域に接する古い集落の中にある。眼前には農地法により保護された田園が広がり、さらにその奥には矢作川が走る抜群のロケーションである。自身も建築に関わる仕事をされているKさんは、この風景に惹かれ土地を購入し移り住むことを決意された。

この経緯から分かるように、ロケーションを活かした計画とするのは必須であったのだが、風景は敷地に対して西側に向けて広がっており、開放することで起こる強烈な日射環境を克服しなくてはならなかった。その上、他の方角は 幅狭の生活道路を挟み住宅が密集しており、採光、プライバシー共それほど良い環境とは言えず、また新参者として 周囲の住環境を乱すことのない配慮ある計画も同時に求められた。

 と、言っても物置倉庫からの計画スタートである。予算は全くない。まずは仲間内でコツコツと施工することで人工をカバーすることとした。材料は解体現場などの破材胴縁を寄り集め、寸法を合わせることで確保。壁面を一枚の木製スリットレイヤーで覆いつくす意匠とすることで極力材料費を削減。また既存の木部は煤色に染まっていたため、天井と化粧躯体の色はそのままに、壁は漆喰色に塗装統一することで視覚情報を整理している。 

西面には大開口を設け、その先には奥行3.0Mの深い軒下空間、軒先下には植栽帯を設置した。強い西日は植えられた木々が適度に遮り、残りは軒下空間で反射軽減され室内に適度な光として運ばれる。東面には天井近くにスリット状の窓を設け、午前中は室内に朝日を導き、午後からはふんわりとした反射環境光を室内に取り込んでおり、一日の時間の流れを光で感じることに一役買っている。

 軒先には雨樋を設けることをせず、雨の日にはその雨垂れがそのまま木々に潤いを与え、天候ごとに、その日を楽しむちょっとした仕掛けとなればと考えた。また、この水平ラインは建物の形態を特徴づけるものとなっており、室内からは、どこまでも続く田園風景を印象付けるフレームとしても機能している。軒下空間の先には現代生活に必要なコンクリートの駐車スペースがあるが、来客がなければ何気ない目地スリットが田んぼの溝切りに見立てられ、奥に続く風景へと視線を誘導していく。

プラン構成としては中央にウォークスルーの衣装室を置く、各居室に至るまで視線の行き止まりを作らない、多方向への動線計画などの工夫で空間の連続性を作りだし、平屋ゆえの単調な動きを解消した。また、窓は浴室、トイレ含めすべて透明ガラスとしている。植栽計画、カーテンなどのファブリックを使った風景のぼかしなどで、室内を外部に滲み出すことも考えながら、同時にプライバシー を確保した。

完成と同時にKさん選りすぐりの家具や調度品が次々と運び込まれ、上品に色づけられていった。今後持ち込まれる物は小さなもの一つとっても、Kさんのフィルターを通し厳選され、空間を色付けていくことと思う。これからの住まい方もさることながら、打合せ中に生まれたお子さんが 、両親の美意識と、広大な風景の中でどのように育ち、羽ばたいていくのか、今から楽しみである。

用途専用住宅
竣工2020年12月
建築地岡崎市
工事内容新築
構造規模木造/地上1階(改修) ㎡
撮影
その他